九谷焼の裸婦が気になって

西浅草から路地を抜け、国際通りを横切り、ひさご通りから、花やしきの裏を抜けて行く。

言問通りを渡ると、山谷堀を目指し、そして桜橋を目指す。面白いことに、足は古い家並みが残る所を選んで行く。

山谷堀は、今は桜並木の遊歩道となり隅田川近くまで続く。隅田川に突き当たった所には堰があるから、今でも遊歩道の下を流れているのであろう。

今まであまり興味がなかったので渡っていなかった桜橋を渡る。やはり、駒形橋や、うまや橋のような面白味はない。

しかし、渡り終えて高速の下をくぐり向島へと出ると、驚くほど古い街が残っていた。

そして、ついつい寄ってしまったのが「カド」という店である。喫茶店であろうが「生ジュースとくるみパンのサンドウィッチの店」。

店の外観、看板や貼り紙の古さから、頑固な、おじさんや、おばさんの姿を想像したが、店に入ると頑固そうな息子さんであった。あまりの若さに、ちょっと拍子抜けになる。

昼は、少し遅めに曳舟の喫茶店「はなや」でナポリタンと思っていたのだが、ここで昼食とした。
先代が始めて56年経つという。私と同級生といえそうな店である。テーブルの柄、天井の柄は、新しい感じで違和感があったが、もともとの絵を息子さんがトレースして描き直したとのこと。壁に飾られる魅力的な女性を描いた油絵は、おとうさんが集めたとのこと。

さすが花町の向島である。寂れた町のようだが、古い、新しいに関わらず、立派な建物が目に付く。

目的の向島の銭湯「松の湯」は、かなり渋い商店街である。道をジグザグに歩き斜めに向かって行く。

そして最後の路地を抜けると、時代がかった商店の向こうに煙突が覗いていた。ちょうど、銭湯の手前の路地だった。

角の古い建物は米屋で、その並びが松の湯だった。町田氏の情報では「26日まで」とあったのだが、私はすっかりそれを忘れ「果たして営業をしているのだろうか?」と店の前まで行った。

まだ銭湯が開くには早い時間、店の前で、おばあちゃん二人がしゃがみこんで話をしていた。「おばあちゃん、ここは、いつまでやっているの?」と聞くと「わかんないね、いつまでだろね」と全く感知していないかの返事。そのくせ、無くなったら遠くの銭湯に行かなければならない話で盛り上がっている。「ここの銭湯の人はいるの?」と聞いても、「さあ、別のところに住んでるのかね」「いや、裏にいるよ」とのこと。

脇に周って行くと、ゴォーっというボイラーの音が聞こえてきた。やっていると思い、声を掛けると「三時からだから、今忙しいんだよ。もうすぐ開けるから」と威勢の良いおばちゃんの声。

気が付けば、もう二時半を回っていた。一旦、銭湯の前に戻ってみると、数人の年配者が銭湯のコインランドリーなどに集結していた。
声を掛けてしまったからには、入っていかねばなるまいと、鳩街通り商店街を歩いて時間をつぶす。車も通れる道だが、とにかく狭い。そして、古い店が随分と残っている。昔は賑やかであったのだろう。それだけに、区画整理できずに生き残ったようだ。

銭湯の前に再び戻り、コインランドリーの丸イスに腰掛けていると、通りに「ムーンリバー」が流れてきた。「あっ、三時だね」と近くのおばちゃんに声をかければ、みんなぞろぞろと銭湯へと。しかし、花街らしく洒落た選曲である。
おばあちゃん達ばかりかと思ったが、おじいちゃんも数人いて、その後ろから私も入る。写真撮影の許可をいただき、脱衣所に行くと、小さな庭の小さな池で金魚が泳いでいた。子供の頃の銭湯そのものである。

先ずは、上着と靴下を脱ぎ、湯気がこもらないうちに写真を撮らせていただく。洗い場へと入り、お客さんたちに声を掛けて写真を撮る。

以前、町田氏の写真で見たことはあったが、実際に見ると、なんとも懐かしい感じのするタイル画であった。

洗い場は、海辺の裸婦であるが、湯船のタイルは、鯉の滝登りである。焼き物のタイルだからであろうか、なんとも透明感のある、リアリティのある鯉である。

写真を撮り終わると、服を脱いで入浴である。このタイルの絵の中で入る銭湯は、気分が良い。子供の頃に戻ったような感じもする。

もっと写真が撮りたくなり、脱衣場に戻りデジカメをもって再度風呂に入る。洗い場の自分の目線、湯船からの目線で写真を撮る。

そんなことをしているからか、それとも江戸っ子は烏の行水なのか、私が服を着始める頃には、殆どの人が帰った後だった。それにしても午後三時から広い風呂に入り、表は明るく天気も良く、高い天井ということもあってだろう、とても気分良く、脱衣場でもくつろいだ。

帰りに番台にタオルを返しに行くと、息子さんに交替していた。写真撮影させていただいたことに感謝のあいさつをし、最後に「26日(金)まで営業します」の貼り紙を撮ったのであった。

まだまだしばらくは明るい、街を歩いても爽やかで気持ちが良い。

向島も、業平よりは何度か歩いているので、できるだけ歩いたことのない道を歩くと、洒落た酒屋さんの建物が残っていた。

しかし、歩き慣れた牛嶋神社の辺りまで来ると、先ほどまでの爽やかさは、どこかへ行っていた。

墨田公園で休憩し、枕橋を渡り、墨田区役所脇の階段に登ると、なぜか体中が痛かった。吾妻橋に来た頃には、西の空の下の方がオレンジ色になっていた。
本当は、九谷焼の銭湯のタイルをどうにか保存したいなどとも考えたが、私には何も出来ない。でも、こうして入浴してこられたのだから、もうそれでよい。物としての価値もあるが、そこで暮らしている人の生活もあるわけだし。
まあ、しかたないね。たまたま身近だったから、色々と考えてしまったりしたが…。
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