鳥越の鈴木酒蔵
まあ正しい住所は浅草橋。暖簾には「鈴木酒場」と書かれている。
以前から歩きながら「古い家だな~」と眺めていた。暖簾をくぐると、3組のお客さんがいたが、2組は近所の会社の人たちらしかった。
一人、カウンターに座り、メニューを眺めていると、二度ほど「なにんしますか?」といわれたので、「生ビールありますか…」と注文する。
雑誌の原稿の下書きをしながら、お通しをつまむ。今夜は歩いたこともあるし、少し暑いぐらいだから「山かけ」を頼む。ビールと、さっぱりとしたまぐろの山かけの組み合わせとは、我ながら素晴らしい。
これまた、山芋が良い。醤油を掛けて混ぜようにも、一塊になって、粘りがあるというより、しっかりとしている。続いて焼き鳥を頼んで少しつまんだところで、おやじさんが入り口のところに様子を見に来たので話しかけてみる。
「昭和3年。もう80年だよ。」
「じゃ2代目ですか、3代目ですか?」
「3代目だね。」
この辺りは空襲で焼け残ったのだそうだ。もうすぐそこまで火の手が迫っていたのだが、急に風向きが変わったらしい。
「神風が吹いたって言っていたね。」とは先代の言葉であろう。
しばらく話をして、店をでる。山かけも、焼き鳥もおいしかった。
表から店を写真を撮っていて気がつくと、路地を入ったところに銭湯があるではないか。
見上げれば妻壁に壁土で鶴が描かれ「つるの湯」とある。こちらも暖簾には「鶴の湯」とある。写真を撮り始めると、道の反対側でタバコをすっていたおやじさんが、写らないように端に寄ってくれた。
「前は薪だったんだけれどね、火の粉が出るってんで、重油なってね。そしたら今度は煤が出るんだよ。煤が。こうゆうところが黒いブチになってね。」とシャツをつまんで見せる。
「今はね、ガスだよ。煙突が無いんだよ。」
古い家が残っている話をしていると、「おれんちも昔は米屋をやっててね。マンションよりもこっちの方がいいってんでね、ボロ屋だけど住んでんだよ。」とすぐ後ろの家を指した。
どうも、店の跡にマンションを建てたもののやはり住まいは今までのままが良くて、そちらに住んでいるという雰囲気だ。
「鳥越のお祭りになるとね、前の日から皆が集まって植木を片付けて、この家の前で茣蓙敷いて宴会さ。」
外観は新しい雰囲気の家だったが、ガラガラとおやじさんが戸を開けると、懐かしい玄関が現れた。見上げると、大きく伸ばした鳥越の神輿の写真がある。
「おれの家の前を通るなてーのは、何十年に一回だからね。」と自慢そうだった。
障子の向こうには、テレビでも見ているらしいおばさんの姿があった。「あんた、いつまでも、なにやってんのよ!」そんな声が聞こえてくる前に私は、「もう遅いから」と玄関を出た。
ただ、歩いて帰る途中で居酒屋に寄っただけだったが、素敵なひと時を過ごさせていただいた。
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コメント
そうですか、最近の銭湯はガス化されているんですか。
じゃああのシンボルともいえる煙突の意味が無くなってきちゃうんですねぇ。
浅草といえば、先日合羽橋商店街に行ったのですが
日曜日だったので店の三分の二は閉まっていました。
やっぱりあそこは問屋街なんですね。
投稿: 男ガール | 2009年4月15日 (水) 11時36分
> 先日合羽橋商店街に行ったのですが
えっ!?
私の東京のマンション、合羽橋道具街のすぐ裏です!!
でも、日曜日はいませんですけれどね。
煙突は、倒れると危険だからっていうこともあって、
酒造などでも、比較的新しい煙突は、コンクリート製でも低い煙突です。
投稿: あつし | 2009年4月15日 (水) 12時06分