上野物語2
一緒に行ったお客さんは、「ワーゲンが好きで一度は乗りたい」と話してくれた。何台かのワーゲンのプラモデルも組み立てて飾っていたらしいが、ある日一台もなくなっていたとか。奥さんに訊くと、「邪魔だから捨てた」と言われたらしい。
最近もインターネット・オークションで買ったものが壊れたり、なくなったりしているらしい。全て奥さんの仕業らしい。
傍から見ていると、なぜ一緒になっているのだろうと思うが、「バラバラにして、トイレに流したりすると分からないらしいよ」と最近の殺人事件がネタに出る。「まずは処分の仕方を勉強して」とお酒が入っての冗談にしては、過激な会話も飛び出す。やはり険悪な関係なのだろうかとも思う。
美景のチイママがマスターと私の間に座り、私とお客さんとの間に、若い子が座る。話をしていると、
「奥さんのことが好きなんですね」と、二人から言われて、
「?」
何かそんな話をしたかしらと思った。もう酔っ払っているのかもしれない。
とりあえず私がカラオケ代の千円札を出して、一曲歌いだす。喉も苦しくなく、何だかとても気持ち良く唄える。女の子達も「歌が上手い」とほめてくれる。気分は最高だ。
対抗するようにチイママが歌いだす。驚いた。まるでCDを聴いているかのようだ。ルックスもいいし、歌も上手い。上手いというか、こんなに上手な女性には今までであったことがない。お互いに二、三曲歌い、合間にマスターも歌う。マスターも、とても自分のキャラクターに合った選曲で、マスターの唄う姿には、ついつい笑顔がこぼれてしまう。
チイママが中座した時、マスターと私の間に割り込むように、若い女の子が座ってきた。
「ジンです。」
「あっ、このお酒とおんなじだ! あっ、これはジンロだった。」
それにしても"ジン"とは、どんなつづりなのだろうかと思った。
あどけない、この店で一番若いのではないか、という彼女は、チイママと仲良さそうにしていた私に、妬いているようだった。腕をつかんで、歌を唄わされ、ダンスまで踊らされてしまった。時には、女の子に振り回されるのも悪くはない。
私が彼女と仲良くしているうちに、お客さんは先に来た若い子と仲良くなっていた。二人だけで話をしていて、カラオケも歌わない。でも、とても幸せそうである。怖い奥さんが自宅で待っているだろうに、他人事ながら帰りを心配したくなる。
彼女がトイレに立った時などにマスターの方を見ると、チイママは私達に焼もちを妬いているとという顔をしてみせる。
トイレから戻ってくれば、私は彼女につかまれる。何を話していたのだか。きっと他愛もないことなのだと思うのだが。
いつの間にか、彼女は私にしがみついて涙を流していた。
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